スノーフレークス
 マンションのお隣の西野家ではお通夜の準備をしていた。昨夜、西野のおばあさんが亡くなったのだという。おばあさんは雪の中で行き倒れていたのかと私がたずねると、父さんは否定した。おばあさんはここ数日間風邪をこじらせて寝込んでいたのだという。どうりで最近、彼女の顔を見なかったわけだ。家族の話では、おばあさんは年もとっていたし、昨夜の寒波の到来に彼女の体は持ちこたえられなかったのだろうということだ。
 西野のおばあさんのご遺体が自宅にあるということは、あの後、あの白い女たちは彼女を家に戻したのだろうか。
 
 足の痛みはだいぶ引いてきたので私はいつもどおり学校に登校した。私には調べたいことがあるからゆっくり休んでなんかいられない。
 昼休みになると私は早速図書室に向かった。
 図書室にはちょくちょく来ている。さすが、県で屈指の進学校だけあって図書室の設備も充実している。ここは横浜で通っていた公立高校の図書室よりも広いし、おそらく蔵書数もずっと多いのだろう。ランチタイムだというのに、机に向かってレポートを書いている生徒が何人かいる。

 広い部屋の一画には富山県や北陸地方の郷土の史料が置いてある。澁澤君が言った「雪国の化け物」というキーワードを思い出して、私はそれについて書かれてありそうな本を開いてみる。地元の新聞社や教育委員会が編纂している雪国の資料をめくってみたけど、超常現象にまつわることは書いていない。
 それから私は「越中雪山抄」という本を手に取った。背表紙の解説を読むと「雪というものは暖地においては美しいものとされているが、この越中の地では恐ろしい自然の脅威になりうるものだと考えられている。著者は、雪と戦い、雪と共生する里人の風俗や生活を、雪国の人間特有の視点で解説する。自然現象や先祖から受け継がれた伝承、雪中の物の怪のような怪奇現象を、巧みな筆致で紹介している」と書いてある。
 興味をそそられた私はその本のページをめくった。雪国の気候についての章、民俗についての章、薬売りの行商についての章に続いて、怪奇現象について書かれた「雪国怪奇談」という章を読む。
 
 医王山は富山県と石川県の県境にある山であり、麓の里には青々とした稲穂が頭を垂れる田園が広がっている。温泉も噴き出すこの風光明媚な里山も、冬ともなれば一面の深い雪にすっぽりと覆われてしまう。
< 43 / 85 >

この作品をシェア

pagetop