スノーフレークス
昔々、杉作という一人の若い木こりが仲間と連れ立って医王山に木を切りに出掛けた。秋の終わりのことである。山道の途中、突然の嵐に見舞われた彼らは洞窟へ逃げ込んだ。
その年は寒波が例年よりも早く訪れたため嵐は吹雪となった。仕方なく二人は洞窟で一夜を明かすことにした。暗い洞窟の中で、二人は寒さに震えながら互いに身を寄せ合っていた。
その夜、あまりの寒さにふと目を覚ました杉作は目の前の異様な光景に驚いた。いつの間にか洞穴の中に白い着物を着た美しい女が入り込み、仲間の顔に息を吹きかけていたのだ。
女は氷の粒子がキラキラ光る白い息を吐きながら、今度は杉作の方へ近寄ってくる。杉作は恐怖で声も出ず身じろぎもできない。観念した杉作の耳に女の声が聞こえた。それは風のような木霊のような、不思議な声だった。
「この者は私が冥途の宮に送り出した。私が来ずとも、どうせこの寒さでは朝まで体がもたないだろう。若者よ、私はお前だけは生かしてやろう。お前はまだ若く、死なすには惜しいほど美しい。その代わり今夜のことを誰にも話してはならないよ。万一誰かに話した場合、私はお前を殺すだろう」
女はそう言い残して冷たいの闇の中にその姿を消した。
やがて夜が明けると激しい吹雪はおさまっていた。傍らの木こり仲間は冷たくなって死んでいた。杉作は彼の死を悲しみながらも遺体を担いで里に戻り、野辺の送りを手厚く営んだ。
翌年の冬、雪道に迷った美しい娘が杉作の家を訪ねてきた。娘が一晩ここに泊めてくれと頼んできたので、杉作は気の毒に思って女を温かくもてなした。
娘はそのまま家に居つき杉作と夫婦となった。二人は三人の子どもに恵まれたが、妻は不思議にも年を取らずその美しさはいつまでも変わらなかった。
数年後、里にまた冬が巡ってきた。ある夜、杉作はふと昔の出来事を思い出して妻に語った。
「お前の顔は、わしが十八歳の時に出会った妙な女と似ているよ」
妻は驚いた顔をしてみせたが、静かにたずねた。
「お前さんはその女とどこで会ったのかい?」
妻にたずねられ、杉作は雪山の洞窟で遭遇した恐ろしい出来事を話した。
すると妻は急に青ざめた表情をして立ち上がった。
その年は寒波が例年よりも早く訪れたため嵐は吹雪となった。仕方なく二人は洞窟で一夜を明かすことにした。暗い洞窟の中で、二人は寒さに震えながら互いに身を寄せ合っていた。
その夜、あまりの寒さにふと目を覚ました杉作は目の前の異様な光景に驚いた。いつの間にか洞穴の中に白い着物を着た美しい女が入り込み、仲間の顔に息を吹きかけていたのだ。
女は氷の粒子がキラキラ光る白い息を吐きながら、今度は杉作の方へ近寄ってくる。杉作は恐怖で声も出ず身じろぎもできない。観念した杉作の耳に女の声が聞こえた。それは風のような木霊のような、不思議な声だった。
「この者は私が冥途の宮に送り出した。私が来ずとも、どうせこの寒さでは朝まで体がもたないだろう。若者よ、私はお前だけは生かしてやろう。お前はまだ若く、死なすには惜しいほど美しい。その代わり今夜のことを誰にも話してはならないよ。万一誰かに話した場合、私はお前を殺すだろう」
女はそう言い残して冷たいの闇の中にその姿を消した。
やがて夜が明けると激しい吹雪はおさまっていた。傍らの木こり仲間は冷たくなって死んでいた。杉作は彼の死を悲しみながらも遺体を担いで里に戻り、野辺の送りを手厚く営んだ。
翌年の冬、雪道に迷った美しい娘が杉作の家を訪ねてきた。娘が一晩ここに泊めてくれと頼んできたので、杉作は気の毒に思って女を温かくもてなした。
娘はそのまま家に居つき杉作と夫婦となった。二人は三人の子どもに恵まれたが、妻は不思議にも年を取らずその美しさはいつまでも変わらなかった。
数年後、里にまた冬が巡ってきた。ある夜、杉作はふと昔の出来事を思い出して妻に語った。
「お前の顔は、わしが十八歳の時に出会った妙な女と似ているよ」
妻は驚いた顔をしてみせたが、静かにたずねた。
「お前さんはその女とどこで会ったのかい?」
妻にたずねられ、杉作は雪山の洞窟で遭遇した恐ろしい出来事を話した。
すると妻は急に青ざめた表情をして立ち上がった。