スノーフレークス
「お前さん、約束を破ったね! お前さんが話した女は私のことだよ。けれど私たちの間には子どもがいるから、父親であるお前さんを殺すことはできないよ。正体がばれてしまった以上、私はここに残ることはできない。お前さんを生かしてやる代わりに子どもをしっかり育てておくれ」
妻は家を飛び出して暗い雪原の中に消え、二度とその姿を杉作の前に現さなかった。
私は子どもの頃に読んだ小泉八雲の「怪談」を思い出した。確か、「怪談」に出てくる女の話もこういう筋の話だったような気がする。資料によると、「怪談」の類の伝承は新潟や富山、長野にも残っているそうだ。
物語の中には吹雪の夜に白い息を吐いて人間を殺める白装束の女が出てくる。ということは、氷室翠璃は「怪談」に出てくるあの女といっしょだというのだろうか。
彼女は雪女だというのか。
次に、私はパソコンのあるコーナーに行って検索サイトにアクセスした。インターネット上のエンサイクロペディアで「雪女」について調べた。
「解説」
雪国の伝説の中に出てくる雪の精の類。
雪娘、雪女郎とも呼ばれる。
雪の日に白ずくめの身なりで現れる美しい女。
雪のように白い顔をし、白い冷気を吐いて人間の命を奪う。
雪国における雪害や冬の寒さ、死への恐怖を象徴している。
私は「人間の命を奪う」や「死への恐怖を象徴している」という言葉に目を留めた。氷室さんはそんなに邪悪で禍々しい存在なのだろうか。問わず語りの池で雪女という悪魔が私の命を救ったのは、ただ単に私に借りがあったからなのだろうか。
「何してるの」
ふいに背後から肩に触れられ、私は慌ててパソコンのブラウザを閉じる。
振り返るとそこには端正な顔をした美少女が立っている。氷室翠璃が音もなく私の後ろに近づいていた。
「氷室さん!」
私の心臓が飛び出しそうになった。
「ちょ、ちょっと調べものをしてたの。氷室さんも図書室に?」
「ええ。私、あなたを探していたのよ」
彼女が私を探すなんて珍しいことがあるものだ。
「そう。何か用でも?」
「わかるでしょ。ちょっと話がしたいの。放課後、公園まで付き合ってくれないかしら? あなただって私と話がしたいんじゃないの?」
氷室さんは昨日の夜のことについて話がしたいのだ。
「いいわよ。じゃあ、学校が終わったら生徒玄関で待ち合わせしようか」
妻は家を飛び出して暗い雪原の中に消え、二度とその姿を杉作の前に現さなかった。
私は子どもの頃に読んだ小泉八雲の「怪談」を思い出した。確か、「怪談」に出てくる女の話もこういう筋の話だったような気がする。資料によると、「怪談」の類の伝承は新潟や富山、長野にも残っているそうだ。
物語の中には吹雪の夜に白い息を吐いて人間を殺める白装束の女が出てくる。ということは、氷室翠璃は「怪談」に出てくるあの女といっしょだというのだろうか。
彼女は雪女だというのか。
次に、私はパソコンのあるコーナーに行って検索サイトにアクセスした。インターネット上のエンサイクロペディアで「雪女」について調べた。
「解説」
雪国の伝説の中に出てくる雪の精の類。
雪娘、雪女郎とも呼ばれる。
雪の日に白ずくめの身なりで現れる美しい女。
雪のように白い顔をし、白い冷気を吐いて人間の命を奪う。
雪国における雪害や冬の寒さ、死への恐怖を象徴している。
私は「人間の命を奪う」や「死への恐怖を象徴している」という言葉に目を留めた。氷室さんはそんなに邪悪で禍々しい存在なのだろうか。問わず語りの池で雪女という悪魔が私の命を救ったのは、ただ単に私に借りがあったからなのだろうか。
「何してるの」
ふいに背後から肩に触れられ、私は慌ててパソコンのブラウザを閉じる。
振り返るとそこには端正な顔をした美少女が立っている。氷室翠璃が音もなく私の後ろに近づいていた。
「氷室さん!」
私の心臓が飛び出しそうになった。
「ちょ、ちょっと調べものをしてたの。氷室さんも図書室に?」
「ええ。私、あなたを探していたのよ」
彼女が私を探すなんて珍しいことがあるものだ。
「そう。何か用でも?」
「わかるでしょ。ちょっと話がしたいの。放課後、公園まで付き合ってくれないかしら? あなただって私と話がしたいんじゃないの?」
氷室さんは昨日の夜のことについて話がしたいのだ。
「いいわよ。じゃあ、学校が終わったら生徒玄関で待ち合わせしようか」