スノーフレークス
 澁澤君には彼女に近づくなと言われているけど私は彼女の誘いにのった。制服の内ポケットには錦の袋が入っている。このお守りがあれば澁澤君自身の加護があるような気がして心強い。
 氷室さんは私の提案にうなずき、颯爽とした足取りで教室に戻っていった。

 古城高校に隣接する古城公園の中にはだだっ広い広場がある。前田利長公の銅像が置かれたその広場は市民の憩いの場で、休日には多くの家族連れが遊びにやってくる。私たちは桜の木の下にあるベンチに並んで座った。
 氷室さんはすぐそこの自販機で買ったばかりの冷たい缶ジュースを飲む。こうやって人間の飲み物を飲む彼女がお化けの仲間だなんてとても思えない。

「この寒いのに、よくそんな冷たいものが飲めるわね」
 私は思わず言った。
「私、冷たいものが大好きなの。冬でもカキ氷を食べられるわ」
「そうなの」
 雪女は食べ物も冷たいのがお好みなのだろうか。
 こうやって氷室さんを見ていると、昨夜白い着物に身を包んでいた少女とは別人のような気がしてくる。
「氷室さん。昨日の夜、うちの近所であなたに会ったわ」
 私の方から本題に入る。私にはききたいことがいっぱいあるのだ。
「あなたともう一人の女の人は白い着物を着て、吹雪の中で傘も差さずに立っていたわ。西野のおばあさん、うちの近所の人なんだけど、彼女があなたたちの所に近寄っていったわ。おばあさんも傘を差していなかったし、コートすら羽織っていなかった」
 氷室さんはそのハシバミ色の瞳で私をじっと見つめている。
「西野のおばあさんはまるで夢遊病患者のように、あなたたちの所にフラフラ歩いていったわ。彼女が舟みたいなものに乗り込むと、あなたの連れは彼女に向かって白い息を吹きかけたの。とても人間の吐息とは思えないほど白くてキラキラ輝いていたわ。白い息を吹きかけられたおばあさんはぐったりと意識を失ってしまったの」
 私も氷室さんの目を見てたずねる。
「氷室さん。あの光景は何だったの? あなたたちは一体何者なの? 池の一件以来、あなたが不思議なことをするのはこれで二回目よ。今度はとぼけないで教えてちょうだい」
「日向さんはどう思うの?」
 逆に氷室さんがたずねる。
「私? 私はあなたが普通の人間じゃないと思う」
「普通の人間じゃないって言うけど、具体的にはどんな存在だと思っているの?」
「雪女よ」
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