スノーフレークス
 彼女のように妙に落ち着いた人なら、見てくれは十七でもその倍は生きていそうだ。
「わからないわ。私みたいなケースは稀だから。今までは普通の人間のペースで成長してきたけど、この先どうなるのかは予想できない。このまま年をとっていくのか、ある一定のところで成長が止まるのか、私にはわからないの」

 奇想天外な話に好奇心をそそられ、私は彼女に次々と質問していく。
「あなたが太陽の日差しに弱いのは雪女だからでしょ? 今学期の初め、あなたはいつも厚着をしていたわ。暑い日の体育の時間に倒れちゃったし」
「そのとおりよ。私は暑いのも苦手だけどそれ以上に日光に弱いのよ。夏場はサングラスとカーディガンが必須なの。夏場の体育は、母から適当な理由をつけてもらって見学することが多いんだけど、あまり休みすぎるのも不自然だから、あの時は参加することにしたのよ。でも、やっぱり私には厳しかったわ」
 十一月に入ってから高岡では毎日のように曇天が続いている。富山県の年間の日照日数は全国でワーストスリーに入るから、この地方の天候は雪女が生きる上で最適なのだろう。この地方に色白の人が多いのもうなずけることだ。
「もしアラブの国にでも行って強烈な日差しに当たったら、あなたたちはどうなってしまうの?」
「さあね。そんな恐ろしいこと誰も試したことがないわ。母ならどうなるか知っていると思うけど。溶けてなくなっちゃったりして」
 氷室さんは冗談めかして言う。
 さっき図書室で調べたら、お隣新潟県の小千谷市には無理やり風呂に入れられて溶けてしまった雪女の話もあった。雪女が溶けた後、湯船の中には氷柱が浮かんでいたのだという。
「毎晩のお風呂とかどうしているの?」
「雪女は汚れないのよ。そりゃ、泥をかぶれば物理的には汚れるけど、汗をかいたり垢が出たりはしないわ。純粋な雪女の母はお風呂に入る必要がないけど、私はハーフだから多少は汗もかくし新陳代謝もあるわ。いつもぬるめのシャワーを浴びるのよ。でも、熱い温泉とかは苦手ね」
「じゃあ、次は問わず語りの池でのことを教えてよ。あの時、何であなたは私の窮地にすぐに駆けつけてきたの? 私の後を追っていたのは何故?」
 今まで溜まりに溜まっていた疑問が噴き出してくる。
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