スノーフレークス
戦前から続く名門進学校の制服は昭和の時代からそのデザインを変えていない。男子の制服は詰襟の学ランで、女子の制服は昔ながらのセーラー服だ。戦前の女学校の生徒が着用していたようなデザインで、襟のところにえんじ色のスカーフが付いている。横浜では中学高校ともにブレザーの制服だったので、セーラー服を着られるのはちょっとうれしい。
高岡市内のホームセンターで買った九千八百円の自転車に乗って、私は古城高校がある大きな公園に向けて出発した。初日は母さんが付き添ってくれる予定だったけど、母さんは朝から体調が悪くなったので予定を変更した。代わりに父さんが出勤前に付き添ってくれることになり、ちょっと恥ずかしいけど、私たちは親子で連れ立って自転車をこいだ。
「ちょっとこれって公道なの? 狭すぎて車がすれ違えないわ」
古い高岡の町には細い道路が網目のように張り巡らされている。中には軽自動車がやっと通れるほど狭い道もある。
「県庁所在地の富山市は戦災で焼けてしまったけど、高岡市は無事だったんだ。だからここには古い町並みや区画が残っているんだよ」
マウンテンバイクで私の前をゆっくり走る父さんが説明する。
「私、最初のうちは大通りを行くわ。こんな細い路地に迷い込んだら遅刻しちゃいそうだもの」
慣れない自転車をこいでいると時々ぐらついてしまう。
「気をつけろよ。お前も、父さんみたいにヘルメットをかぶったらどうだ?」
父さんはMTB用のヘルメットをかぶっている。
「いくら田舎の高校生といっても、今時誰もヘルメットなんてかぶってないわよ! 大丈夫。車には気をつけるから安心して」
町ですれ違う自転車通学の高校生を見て私は言う。そこへ、シルバーメタリックのマウンテンバイクにまたがった男子高校生が私たちを追い越していく。長身の彼はその頭にMTB用のヘルメットをかぶり、風のような速さで去っていく。
「見ろよ。ヘルメットをかぶっている高校生もいるぞ」
「あれはいいのよ! マウンテンバイクだもの」
こちとら安いママチャリである。
「古城公園の方に向かっているぞ。あの子も同じ学校に通っているんだな」
「そうでしょうね」
「緊張しているのか」
挨拶をしに校長室に向かって古い廊下を歩いていると、父さんが小さな声でたずねてくる。
高岡市内のホームセンターで買った九千八百円の自転車に乗って、私は古城高校がある大きな公園に向けて出発した。初日は母さんが付き添ってくれる予定だったけど、母さんは朝から体調が悪くなったので予定を変更した。代わりに父さんが出勤前に付き添ってくれることになり、ちょっと恥ずかしいけど、私たちは親子で連れ立って自転車をこいだ。
「ちょっとこれって公道なの? 狭すぎて車がすれ違えないわ」
古い高岡の町には細い道路が網目のように張り巡らされている。中には軽自動車がやっと通れるほど狭い道もある。
「県庁所在地の富山市は戦災で焼けてしまったけど、高岡市は無事だったんだ。だからここには古い町並みや区画が残っているんだよ」
マウンテンバイクで私の前をゆっくり走る父さんが説明する。
「私、最初のうちは大通りを行くわ。こんな細い路地に迷い込んだら遅刻しちゃいそうだもの」
慣れない自転車をこいでいると時々ぐらついてしまう。
「気をつけろよ。お前も、父さんみたいにヘルメットをかぶったらどうだ?」
父さんはMTB用のヘルメットをかぶっている。
「いくら田舎の高校生といっても、今時誰もヘルメットなんてかぶってないわよ! 大丈夫。車には気をつけるから安心して」
町ですれ違う自転車通学の高校生を見て私は言う。そこへ、シルバーメタリックのマウンテンバイクにまたがった男子高校生が私たちを追い越していく。長身の彼はその頭にMTB用のヘルメットをかぶり、風のような速さで去っていく。
「見ろよ。ヘルメットをかぶっている高校生もいるぞ」
「あれはいいのよ! マウンテンバイクだもの」
こちとら安いママチャリである。
「古城公園の方に向かっているぞ。あの子も同じ学校に通っているんだな」
「そうでしょうね」
「緊張しているのか」
挨拶をしに校長室に向かって古い廊下を歩いていると、父さんが小さな声でたずねてくる。