スノーフレークス
「嫌な予感がしたのよ。それに、あの日あなたは妙に落ち着かない様子で考えごとをしていたわ。傍から見ていてあなたには心配事があるんだとわかった。あなたはフラフラと裏庭に進んでいくものだから、あなたが池の妖魔に引き寄せられているんだと思ったわ。以前から、私はあそこに嫌な気が渦巻いているのを感じていたからね。私は後ろから池のほとりに立っているあなたを観察していたの。あなたはプリントを池の中に落っことしてパニック状態になっていたわ。これはまずいと思った。案の定、あなたは池の主によって水の中に引っ張り込まれてしまったわ。だから私もあそこへ飛び込んだのよ」
「氷室さんが私のことを観察していたなんて驚きだわ」
 あの時、彼女につけられていたなんて全然知らなかった。
「あなただって私のことを見ていたでしょう。あなたは不思議な人だわ。私は自分の気配を消しているのにあなたには全然効かないもの」
「気配を消すですって? あなたは意図的に自分の気配を消すことができるの?」
「ええ。だって私みたいな半妖があんな人のいっぱいいる所で目立ってはいけないでしょう? 人間を害する妖魔は人間を引き付ける必要があるけど私たちはそうではないの。普段はなるべく人間の注意を逸らさなきゃいけないから、彼らの中で自分の気配を消す能力があるのよ」
 どうりで誰も氷室さんに注意を向けないはずだ。彼女が体育の時間に倒れても、私の他に誰もそのことに気づかなかったし、クラスでも彼女はいつも一人でいる。以前に私が彼女をESSに誘ってもついてこなかったのは、相手が誰であれ人間とは距離を置かなければならなかったからだろう。

「そんな不便な私だって一応半分は人間だから学校に通っているのよ。それは母の希望でもあるわ」
「古城高校に進学した理由って、もしかして教室に冷房が完備されているから?」
「ええ。それも一つの大きな理由ね」
 いくら空調がきいている学校に入りたいと思っても、あそこはかんたんに入れる学校ではない。そんな理由であの名門校に入った生徒はおそらく彼女くらいしかいないだろう。もっとも、この私もよくわからない経緯であそこに転入したのだけど。
「ねえ、氷室さん。私、さっき図書室であなたたちのことを調べたって言ったよね」
 私は思い切って一番気になることに踏み込んだ。
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