スノーフレークス
「まあ、いいけどさ。さっき練習したら私も少しは進めるようになったし」
「玲一郎が来られなくて残念だな。あいつもボードが大好きなんだけど」
 クリスが話を変える。
「そうね。インフルエンザの具合はどうなのかしら」
 澁澤君に対する関心を気づかれないように私は淡々と言う。
「だいぶ熱が出たみたいだけどあいつはいつも鍛えているからね。すぐに良くなるさ」
「そう願うわ」
「この前、君が前庭で玲一郎と話しているのを見たよ。あいつが女子に話しかけるなんて珍しいことだ」
 クリスはその灰色の目で私の顔をチラリと見る。
「そんなこともあったわね。たまたますれちがったのよ」
「ふうん、たまたまねえ」
 クリスはやけにもったいぶった言い方をする。
「そりゃ、私だって知り合いとすれ違ったら挨拶くらいはするわ」
「挨拶ねえ」
「何よ、そのいやらしい言い方は。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「別に。ただ、君たちは何かを話し込んでいる様子だったからちょっと気になるのさ。日向さんが何でもないと言うならそれ以上何もきかないよ」
 人の好いクリスがこんなふうに私を追及するなんてよほどあの時の会話が気がかりなのだろう。

 私は大きくため息をついてそれから思い切って口火を切る。
「クリス。こんなこと話してもきっとあなたは信じてくれないと思うけど」
「何事も話してくれないとわからないよ」
「学校の裏庭にある池、あなたが前に話してくれた所なんだけど」
「池? ああ、問わず語りの池ね。それがどうしたの?」
「あなたが話してくれたとおりあそこはお化けが出る池だわ」
「え、マジで? 何か見たの?」
 クリスは灰色の目を見開く。
「見たも何も私はお化けに池の中に引っ張り込まれたのよ」
「ホントに?」
「ほら、やっぱり信じないじゃない! どうせこの話をしたって私がヘンだと思われるだけだわ」
「そんなことはないよ。全部話してくれないと話がわからないよ」
 クリスが慌てて私をなだめる。
「私、地理のプリントを池に落としたの。木の枝を使って一生懸命拾おうとしていたら池に落ちちゃったのよ」
「ああ。風邪をひいちゃった時だったよね、それ」
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