スノーフレークス
六
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本格的な冬が到来すると私たちよそ者は雪国の厳しさを実感するようになった。都会と比べて地方での生活にはお金がかからないなんていうイメージは間違いだ。雪国では冬場は車のタイヤをはき替えないといけないし、家の前の除雪をする道具を用意しなければならない。
幸い、父さんの上司である中田さんがうちにママさんダンプやシャベルを貸してくれたので少しは出費を抑えられた。ママさんダンプとは雪を載せる橇のような物で雪を側溝などの捨て場に運ぶのに使う。
自宅前の車道には融雪装置が付いているけど、マンションの敷地内にはその装置は付いていない。雪が積もった朝は、父さんがいつもより早起きして他の住人と一緒にマンションの駐車場の雪掻きをしている。時には私が雪掻きに加勢することもある。これが澁澤君の言っていた雪国で暮らすということの苦労なのだとわかった。
この季節は毎日のように曇天が続くので私は窓際の物干しスペースに洗濯物を干している。太平洋側だったら雨なんかほとんど降らなくて乾燥しているのに、この町の冬は薄暗くて湿っぽい。一日のうちいつ雨や雪が降り出すかわからないから「弁当を忘れても傘は忘れるな」という言葉があるくらいだ。南国育ちの父さんなんかは「こんなに毎日曇っているとお天道様の顔を忘れちゃうよ」なんてぼやいている。
今年は数年ぶりに大寒波が訪れ、日本では新型のインフルエンザが流行している。先日、澁澤君も新型の感冒にかかったと聞いたけど、うちの母さんもそれにやられてしまった。ただでさえも体の弱い母さんはここ十日間床にふして咳と熱に悩まされている。
結局、この冬休みは母さんの看病をしなければいけなかったから家族や友達と初詣にも行けなかった。友達と遊びにいったのはESSの部員とスキー場に行ったのが最後だ。母さんが苦しそうに咳をしているのに自分だけ遊びにいくことなんかできない。
翌日に新学期を控えた今、冬休みの課題だけはなんとか片付けることができた。学校が始まったら日中うちには誰もいなくなるから母さんの様子が心配だ。それまでになんとか母さんの病気が治るといいんだけど、母さんの熱はこの十日間ずっと下がらない。病院で点滴を打ってもらったり薬を処方してもらったりしたんだけど、母さんの病気は一向に良くならない。それどころかインフルエンザをこじらせて肺炎を発症してしまった。