スノーフレークス
こんな夜更けに、家の前の通りを人が歩いているのが見えた。差している傘の下からその人がダッフルコートを着ているのが見えた。見覚えのある長身に私の目は釘付けになった。あれは一組の澁澤玲一郎だ。どういうわけか彼はうちのマンションの前に立ってこちらの方を観察している。こんな寒い夜更けに人の家の前で何をしているのだろうか。
その時私はハッと閃いた。澁澤君は霊的な空気を感じ取って発生源をたどることのできる人なのだ。
私は自分の部屋を出ると慌てて母さんが寝ている部屋に行った。暗い和室の中で彼女は静かにその体を横たえていた。これまでは夜中にも苦しげに咳をしていたのに、今の彼女は実に安らかな顔をしている。私は嫌な予感がしてすぐに自分の部屋に戻りダウンジャケットを羽織った。
もしかすると今度はうちの母さんの魂が「送り」の対象になってしまったのだろうか。今あの部屋で寝ているのは魂が抜けた状態の抜け殻の肉体なのだろうか。そんなまさかと思いながら私はエレベーターで階下に下る。
マンションのエントランスから出るとそこに張り込んでいた澁澤君と会った。
「あなたはまた何かを感じてここに来たのね」
私の問いに彼はうなずく。もうすっかりインフルエンザが治ったらしく元気そうな顔色をしている。
「日向さん。今、中年の女の人の魂と思われるものが正面玄関から出てきて、僕の前を通り過ぎていったよ! 僕が呼び止めても全然耳に入っていない様子だった!」
澁澤君が指差す通りの前方を見るとパジャマ姿の母さんが雪の中を歩いている。この前亡くなった西野のおばあさんみたいに傘も差さず裸足で雪道を歩いている! 母さんは確かに今さっき自分の部屋で寝ていたはずなのに、目の前には母さんの分身が歩いているではないか!
あれが彼女の魂だというのか!
「母さん! 母さん!」
私が大声で呼びかけても彼女は振り向かずに先ヘ先へと進んでいる。
「あれは君のお母さんなのか!」
澁澤君が叫ぶ。
私と澁澤君は急いで母さんの後を追って雪道を走るけど、なかなか追いつけない。母さんはとても病人とは思えない速さで足場の悪い雪道を歩いていく。それは明らかに生身の母さんのできることではない。
その時私はハッと閃いた。澁澤君は霊的な空気を感じ取って発生源をたどることのできる人なのだ。
私は自分の部屋を出ると慌てて母さんが寝ている部屋に行った。暗い和室の中で彼女は静かにその体を横たえていた。これまでは夜中にも苦しげに咳をしていたのに、今の彼女は実に安らかな顔をしている。私は嫌な予感がしてすぐに自分の部屋に戻りダウンジャケットを羽織った。
もしかすると今度はうちの母さんの魂が「送り」の対象になってしまったのだろうか。今あの部屋で寝ているのは魂が抜けた状態の抜け殻の肉体なのだろうか。そんなまさかと思いながら私はエレベーターで階下に下る。
マンションのエントランスから出るとそこに張り込んでいた澁澤君と会った。
「あなたはまた何かを感じてここに来たのね」
私の問いに彼はうなずく。もうすっかりインフルエンザが治ったらしく元気そうな顔色をしている。
「日向さん。今、中年の女の人の魂と思われるものが正面玄関から出てきて、僕の前を通り過ぎていったよ! 僕が呼び止めても全然耳に入っていない様子だった!」
澁澤君が指差す通りの前方を見るとパジャマ姿の母さんが雪の中を歩いている。この前亡くなった西野のおばあさんみたいに傘も差さず裸足で雪道を歩いている! 母さんは確かに今さっき自分の部屋で寝ていたはずなのに、目の前には母さんの分身が歩いているではないか!
あれが彼女の魂だというのか!
「母さん! 母さん!」
私が大声で呼びかけても彼女は振り向かずに先ヘ先へと進んでいる。
「あれは君のお母さんなのか!」
澁澤君が叫ぶ。
私と澁澤君は急いで母さんの後を追って雪道を走るけど、なかなか追いつけない。母さんはとても病人とは思えない速さで足場の悪い雪道を歩いていく。それは明らかに生身の母さんのできることではない。