スノーフレークス
「それでも構いません! 私、冥府の門の前で母さんの命乞いをします! 私は沖縄のシャーマンの血を引いているんです! あの世との交信なら自信があるんです!」
 父方のおばあちゃんがユタだったという話はつい最近知ったばかりなのに、私ははったりをかけた。
「たとえあなたが霊媒体質なのだとしても送りの邪魔はさせないわ。早くそこから降りてちょうだい」
 晶子さんの気圧がさらに下がる。
「日向さん、お願いだからバカなまねはよしてちょうだい」
 氷室さんが傍らで心配そうな顔をしている。
「どうしても連れていってくれないなら、私、あなた方のことを皆にしゃべっちゃうから!」
 私の脅しを聞いた晶子さんは腰に手を当ててあきれた表情を浮かべる。妖を怒らせてしまったら私は殺されてしまうのだろうか。もとよりそれは覚悟の上だ。氷室親子は互いに顔を見合わせている。

「いいでしょう。あなたを入り口まで連れていくわ。あなたには恩があるし、常々翠璃のことを気遣ってくれているみたいだからね。あなたの願いを聞いてあげるわ」
 晶子さんは首を横に振ってため息をつく。
「ただし何も保証はしないわよ。お母さんの命が助かることもあなたがここに戻ってこられることも。冥府の門にいらっしゃる仏様のお怒りふれても知らないからね」
「わかりました。覚悟はできています。私のわがままなお願いをきいてくれてありがとうございます」
 私は頭を下げる。
「ちょっと待って。僕もついていくよ」
 横から澁澤君が私たちに声をかけてきた。
「澁澤君は来ないで。他人のあなたまで危険に巻き込みたくないわ」
 私が彼を止めると氷室さんもそれに同調した。
「正直、お荷物がもう一人増えたら困るのよ。あなたはここでお留守番をしていてちょうだい」
 私たちに拒まれて澁澤君はおとなしく引き下がった。

「じゃあ、行くわよ! 舟端にしっかりつかまっているのよ!」
 晶子さんの掛け声とともに雪舟は雪の上を滑り出し、私たちは空気の中にぽっかりと開いた異界への穴をくぐった。視界が一瞬白くスパークして何も見えなくなった。
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