スノーフレークス
七
七
「着いたわよ」
氷室さんの一言で意識が戻った。
辺りを見回すとそこには一面石ころだらけの地面が広がっている。前方では川面に暗緑色の水をたたえた川が穏やかに流れている。まるで恐山の賽の河原のような場所だ。河原のところどころには平たい石が幾重にも積み重なっている。これが話に聞く三途の川なのかと私は思わず目を見張る。
私は雪舟を降りて川の方に近づいた。岸辺にはカラフルな風車が回っている。曇天、石ころ、暗い川の水といった灰色の世界の中で青や赤や黄色の風車がひと際鮮やかに見える。
「ここから先は渡し守が魂を冥界へ送るのよ。私たちの雪舟は川の水には浮かばないの」
氷室さんが私に説明してくれた。
「渡し守はいつ来るの?」
「もうすぐ来るわ。ほら」
氷室さんが川の対岸の方を指差した。そちらの方を見ると、昔の雪国の人みたいに笠をかぶって厚い蓑を身につけた渡し守が一艘の舟をこいでくるのが見えた。お迎えの舟なのだろう。
舟がこちらの岸に着いた。大きな笠のせいで渡し守の顔は見えない。
「わしは安らかなる魂を迎えにきたのだが、おや、ここに部外者が一人紛れ込んでおるな」
渡し守が舟の上から言う。
「この子がどうしてもついていきたいと言い張ってきかないものだから連れてきたの」
晶子さんが答える。
「お前たちほど力の持ち主がただの人間の動きを止めることができなかったのか」
「ごめんなさい。この子には不思議な力があるようなので」
「不思議な力とは何だ」
「この子はシャーマンの家系の子だと言っているわ。ほら、葵ちゃん。自分のことを話して」
晶子さんは私を促した。
「私は沖縄にいるシャーマンの家系の者です。祖母はもう引退しましたけど以前は島でユタとして口寄せをしておりました」
私は自己紹介をする。
「お前の祖母の名は何という」
渡し守がたずねる。
「日向員子といいます」
「ああ、あの琉球の巫女か。その者の名は聞いたことがあるぞ。なるほど母親の魂を見ることができるくらいだからお前にも巫女の資質があるわけだ。それで、巫女ですらおいそれと入り込めないこの場所に孫のお前が何の用で来たのだ?」
「後ろに私の母の魂がおります。私は肺炎にかかった母の命乞いをしにこちらへ参りました。どうか私を向こう岸におわします観音菩薩様に会わせてください」