スノーフレークス
「娘よ。今、お前は『母をよみがえらせるためなら何でもする』と言ったな。ではお前が差し出せるものは何だ。宿命を曲げてもらえるほど値のあるものを何か持っているのか」
お地蔵様がたずねた。
私は考えた。何の取り柄もない私が払える代償といったらあれしかない。私は迷わず口を開いた。
「私は自分のいの……」
母さんのためなら私はこの命を投げ出してもいい。私がこの言葉を言いかけたところで氷室さんが片手で私の体を押さえた。
「地蔵菩薩様。この者は観音菩薩様にお願いをしに参ったのです。その慈悲深いお心でどうかこの者にその機会を与えてやってはいただけないでしょうか」
氷室さんが私の言葉を遮ってたずねた。
「そうであったな。わかった。しばし待たれよ」
お地蔵様はそう言って門の奥に消えた。きっと仏様の仲間である観音菩薩様に私の用件を取り次いでくれているのだろう。
中からの反応を待っている間、五分とも三十分ともつかない時間が流れた。
「滅多なことを口にするものじゃないわ。あの方々の前で放った言葉は言霊になって取り返しがつかなくなるのよ」
氷室さんが私にささやいた。
「じゃあ、どう言えばいいのよ。私はこんな大きな取引で差し出せる宝物なんて持ってないわ」
「いいから余計なことは言わないでちょうだい。あなたまで命を落としたらお母さんの魂も浮かばれないわ」
「ちょっとそれじゃあうちの母さんが死ぬと決まっているみたいな言い方じゃない!」
「私はただあなたを心配しているのよ。言葉尻を捕らえるのはやめて」
私たちが言い合っている間に、門の奥から再び赤い前掛けをしたお地蔵様が姿を現した。
私たちはおしゃべりをやめてお地蔵様の方に向き直った。お地蔵様は観音菩薩様に代わってそのお言葉を私たちに伝えた。
「娘よ。観音菩薩殿は大変慈悲深いお方である。お前の母を思う健気な気持ちにそのお心を打たれて、お前の願いに耳を傾けられた。お前は子どもの頃から病弱な母の代わりに炊事や洗濯を手伝ってきた。また、お前の祖母である琉球の巫女は迷える魂や家族の死を悲しむ人間を救ってきた」
渡し守も名前を聞いたことがあると言っていたけど、うちのおばあちゃんがシャーマンとしてそんなにがんばっていたなんて知らなかった。
「お前のひたむきな心と祖母の長年の努めを斟酌して、今回に限りお前の望みを叶えてやろう」
お地蔵様がたずねた。
私は考えた。何の取り柄もない私が払える代償といったらあれしかない。私は迷わず口を開いた。
「私は自分のいの……」
母さんのためなら私はこの命を投げ出してもいい。私がこの言葉を言いかけたところで氷室さんが片手で私の体を押さえた。
「地蔵菩薩様。この者は観音菩薩様にお願いをしに参ったのです。その慈悲深いお心でどうかこの者にその機会を与えてやってはいただけないでしょうか」
氷室さんが私の言葉を遮ってたずねた。
「そうであったな。わかった。しばし待たれよ」
お地蔵様はそう言って門の奥に消えた。きっと仏様の仲間である観音菩薩様に私の用件を取り次いでくれているのだろう。
中からの反応を待っている間、五分とも三十分ともつかない時間が流れた。
「滅多なことを口にするものじゃないわ。あの方々の前で放った言葉は言霊になって取り返しがつかなくなるのよ」
氷室さんが私にささやいた。
「じゃあ、どう言えばいいのよ。私はこんな大きな取引で差し出せる宝物なんて持ってないわ」
「いいから余計なことは言わないでちょうだい。あなたまで命を落としたらお母さんの魂も浮かばれないわ」
「ちょっとそれじゃあうちの母さんが死ぬと決まっているみたいな言い方じゃない!」
「私はただあなたを心配しているのよ。言葉尻を捕らえるのはやめて」
私たちが言い合っている間に、門の奥から再び赤い前掛けをしたお地蔵様が姿を現した。
私たちはおしゃべりをやめてお地蔵様の方に向き直った。お地蔵様は観音菩薩様に代わってそのお言葉を私たちに伝えた。
「娘よ。観音菩薩殿は大変慈悲深いお方である。お前の母を思う健気な気持ちにそのお心を打たれて、お前の願いに耳を傾けられた。お前は子どもの頃から病弱な母の代わりに炊事や洗濯を手伝ってきた。また、お前の祖母である琉球の巫女は迷える魂や家族の死を悲しむ人間を救ってきた」
渡し守も名前を聞いたことがあると言っていたけど、うちのおばあちゃんがシャーマンとしてそんなにがんばっていたなんて知らなかった。
「お前のひたむきな心と祖母の長年の努めを斟酌して、今回に限りお前の望みを叶えてやろう」