【短編】とある悪い日の話
「とりあえず、生一つ」
気付けば私は一人で居酒屋のカウンターに座っていた。
メニューを見ることもなく無難な注文をしてからやっと意識が戻ってきたような感覚。
いや、ほんとに何なんだ今日は。
ついてないとか、そういうレベルじゃない気がする。
さっきの優希はドッペルゲンガーか何かかな?
だとしたら、まだ望みはある、けど。
「………」
落としたことで画面がバキバキに割れたスマホを操作して優希の連絡先を開くも、私の親指が通話ボタンを押すことはなく。
怖くて、無理。
だって、本人だったら?
7年も一緒にいたのに、こんな最後有り得る?
浮気ならいつから、とか
私の何が不満だったのか、とか
聞きたいことは山ほどあるけど、きっと声が震える。
そんなみっともない姿、晒せない。