愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
「やっと思い出してくれたか? 第一営業部部長の名前をフルネームで知っておきながら、俺のことを思い出せないなんて、まったく」

 そんなこと言われても、今ようやく“鷹野遼一”と“遼一お兄ちゃん”の「遼一」が重なった。五歳の私に、鷹野の苗字など知る必要もなかったし、鷹野遼一と聞いてもピンとこなかった。

「茜ちゃん、ご両親は元気か? 今度挨拶に行こうと思っている。何年ぶりだろうな、俺の顔、ちゃんと覚えてるか心配だ」

 鷹野部長はそう言いながらにこりと笑った。

 え……? もしかして、お父さんもお母さんも亡くなったの、知らないのかな――。

 ということは、鷹野部長はまだすず亭が続いていると思っているに違いない。

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