愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
「お久しぶりです、鷹野様。いつ日本に戻られてたんですか?」

「あぁ、実は帰国したてホヤホヤ、昨日帰ってきたばかりなんだ。また世話になるよ」

「どうぞ、ご贔屓に。ありがとうございます」

 鷹野部長と責任者の男性は顔馴染みのようだ。メニューを手渡すと、男性は恭しくお辞儀をしてその場を後にした。

 通された席は、予約をしていないのに都心が一望できるような窓際だった。鷹野部長だからこそ顔パスなのだろう。けれど、今夜はあいにくの雨で雲がかっている。

「ここの店、実は親父が茜ちゃんのお父様に紹介してもらったところなんだ。俺も海外暮らしが長いから、日本食は楽しみだ」

「そうだったんですか……」

 私の知らない父のことを、鷹野部長が知っているのがなんとなく不思議だった。それから私は、この店のおすすめだというすき焼き御膳を注文すると、飲み物が運ばれてきた。

「鷹野部長はいつから海外に行かれてたんですか?」

 海外暮らしが長かったと言う鷹野部長に、私はそれとなく尋ねてみた。

「うーん、俺が高校に入ってからずっとだよ。まだガキだった俺は当時反抗期でね、親元から離れたいっていう気持ちが強くて、実は外資系の商社に入社したのも、海外勤務を希望したかったからなんだ」

 鷹野部長が少し苦笑いしながらノンアルコールのシャンパンを煽る。
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