愛しの許嫁～御曹司の花嫁になります～

「そっか、秘書たるもの語学も堪能じゃなきゃね！　じゃ、私はこれで失礼するわ」

　黒髪をさらっと翻す姿に惚けていると、水菜さんが「あ！　そうだ」と急に足を止めて振り返る。

「明日、帰国してくる鷹野部長のお迎えの車、手配は済んでる？」

「はい、バッチリです」

「そう、ならよかった。じゃあね」

　ひらっと手を振って、水菜さんは今度こそ秘書課のオフィスを出て行った。

　第一営業部部長　鷹野遼一　三十二歳。

　アメリカに企業進出のため、二年間現地勤務をしていたという鷹野部長が、この度成功を収めて明日、凱旋帰国してくる。噂によるとかなりのやり手で、どんな交渉も好成績を残し失敗知らず、そして人脈も厚く、なにより見目麗しいイケメンときている。私は実際に会ったことはないけれど、サイトに掲載されている写真を見れば、その容姿端麗さは一目瞭然だ。

　さて、私も帰ろうかな――。

　周りを見渡すと秘書課のオフィスにはもう誰もいない。私は身支度を整え、オフィスを出た。