小さな恋物語
待ちに待った6時間目。数学の授業。細くて滑らかな手が、黒板に数式を書いていく。その光景は、一種の絵画のようであり、クラシック曲のようにも見える。とにかく、美しい。この言葉以外に、この光景を形容するものはない。

「この問題形式はセンター試験でも頻出だから、ちゃんと理解するように」

なんてことだろう。彼の言っている問題に目をやると、全く意味が分からない。彼は馬鹿な人間が嫌いだから、これはまずい。何とか理解しなければ。しかし、焦れば焦るほど、どんどん混乱していく。

「どうした松本、ペンが止まってるぞ」

神様はなんてアホなことをしてくれたんだ。どうして今、私の近くに彼が来るようにしたんだ。もうダメだ。私の知能の低さ加減に、彼は私を嫌いになるに違いない。

「分からないんです」

このセリフが、1ヶ月の間に築き上げた私を崩壊させてゆく。音を立てて私が崩れていって、馬鹿で甘ったれな私が露になっていく。彼に最も知られたくない部分が、剥き出しになっていく!
< 29 / 45 >

この作品をシェア

pagetop