小さな恋物語
……あれ?

「雨の日だったな」

何か思い出してきた。

「たまたま車で通った道で、13歳のお前がカッパを着て自転車のタイヤを見てたなぁ」

3年前の秋ぐらいだったかな。

いつものように自転車で塾に行って、帰ろうとした時には雨がザーザー降ってた。

私は近くのコンビニで買ったカッパを着て、自転車で帰ってたんだけど、道に落ちてたガラス片でパンクしたんだよ。

「……私はパンクを直そうと必死で」

「そんなお前に俺は声をかけた」

「知らない声に振り返ると、チャラチャラしてそうな男が乗るタイプの車と、チャラそうな男がいた」

「それが俺」

「その人は私を半ば無理矢理車に乗せて、私を家まで送ってくれた」

「車内でお前の夢とか、志望校の話を聞いた」

「私が降りるときに、その人からシルバーのネックレスをもらった」

そのネックレスは今でも持ってる。

ペンダントトップが指輪のもの。

「俺はお前から、希望をもらった。俺が教師になろうと思ったのは、お前が語った夢のお陰だよ。何かを目指す喜びを、お前がくれたんだ」

「……全く別人みたい。髪も黒くなったし、車だって落ち着いたタイプにしちゃって……」

「お前は変わらない。恥ずかしい話、20歳の男は13歳の中学生に希望をもらっただけでなく、恋までしてしまった。校内ですれ違った時、不覚にも運命を感じたよ。数学教師なのに、非論理的だな。」

私も、先生よりだいぶ遅くなったけど、たった今、運命を感じてるよ。
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