息もできない。
ケトルのお湯が沸いた頃、ぺたぺたと裸足の足音が聞こえた。迷ったような足取りでリビングの近くまで寄ってきた彼女は、少し躊躇しながら扉を開けた。
「拭けた?」
「はい。タオル…ありがとうございます」
「いーえ。風呂、溜めてくるよ」
差し出されたタオルを受け取って、お風呂場へ向かう。お湯なんてしばらく溜めてないけど。
ささっと洗って、自動湯沸かしのボタンを押す。ザバザバとお湯が溢れてくるのを見ながら、ふと考える。
あそこでなにしてたの?
なんて、聞くべきではないのだろうか。でも流石に気になる。男にフラれたのか。そもそも連れて帰ってきてしまったが、住んでる場所はあった筈。
拾った捨て猫は実は飼い猫なんじゃないか、と考え始めるように。私はふつふつと考えを巡らせていた。
「あの…」
「わっ、なにびっくりした」
「ごめんなさい」
突然背後からか細い声が聞こえて、柄にもなく大きく反応して驚いてしまう。私の驚きにも戸惑うことなく、ぽそぽそと謝る。本当にマイペースというか、ぼーっとしてるな、この子。
「なに、どうかした?」
「…」
「あーもしかして心配してくれたの」
私がなかなか戻らないから。お湯の量を見たらそれなりにぼーっと眺めてしまっていたらしい。
「コーヒーか紅茶どっちが良い?」
「同じで…」
「私と?良いけど」
なんだ、気を使っているのか。猫のくせに。