息もできない。
ほら行くよと背中を押して、リビングに戻る。今や当たり前だけどお湯は見守っていなくたってちょうどのところで止まって、知らせてくれる。
リビングに戻ってコーヒーを淹れている私を彼女は遠目で見ていた。向こうもこっちが何者なのか気になっているのは当然のことで。牽制し合いつつも、どこか馴染む空気が不思議で仕方がなかった。
「はい」
「ありがとう、ございます」
コーヒーを渡すと、彼女は両手でそれを受け取る。なんというか女の子を形にしたような子だ。コーヒーの煙で温まったのか少しずつ頬に色が戻る。青白いままだと本当に陶器みたいで少し怖かった。
彼女がソファに小さく座り、私は少し離れたキッチンのカウンターの椅子に腰掛ける。彼女を眺めていたら、コーヒーをちびちびとしか飲まない。
「猫舌なの?」
少し笑いながら問いかけた。だって、本当に猫みたいで面白い。でも彼女はふるふると首を振った。
「もしかして苦いとか?」
「…」
「なんだ、紅茶にすればよかったのに」
くすくすと笑って砂糖を取ってきてやる。恥ずかしそうに顔を伏せているのが面白くて、さらに笑う。笑いすぎて恥ずかしくなったのか、角砂糖の入った入れ物を置いてもしばらくは触れようとせず、私が促すと 2個ほど入れた。
「飲めるようになった?」
そう問いかけると、口を噤んだままもう1個追加した。苦手なら紅茶にすればよかったのに、ともう一度言うが彼女は首を振った。