息もできない。
「ねぇ」
そう声をかけると、彼女もなにかを察したようにしっかりとこちらを見た。ちゃんと話をしよう。猫ではないんだから。
「あんた、名前は?」
「…麻由子」
「まゆこ、ね。私は潤。よろしく」
自分で言っておきながら何をよろしくするんだろうか。
麻由子は何か言いそうになったが、それよりも前にぐうぅとお腹が鳴った。よろしく、という挨拶の代わりみたいで私はまた吹き出した。麻由子は恥ずかしそうに頬を染めていたが、これ以上笑うと怒り出しそうだ。なんだ、この可愛い生き物は。
「風呂まだ湧かないしなんか食べよっか。…って言っても冷凍食品しかないけどね」
月契約している食材のデリバリー。チンするだけでそれなりのおかずになって、それなりの食卓が完成する代物だ。何かしらがあった気がする。
冷蔵庫を開けてもミネラルウォーターが所狭しと入っているだけで、冷凍庫にはデリが詰め込まれている。
そんな冷凍庫をじっと見つめる麻由子はまた何か言いたげだ。
「なにがいい?パスタとか?魚?」
「…なんでも、いいです」
「あ、それ主婦が一番困るやつだからね」
主婦じゃないけど、と付け加えて笑う。私ってこんなに笑うキャラじゃない筈なのに、と思いながらもなぜだがこの子が私のツボをついてくる。
「グラタン。これでいい?」
麻由子はコクリと頷いた。
2人分のグラタンをチンして、バケットなんかも温めてみた。上出来である。麻由子は「いただきます」と綺麗に手を合わせ、黙々と食べ始めた。ほっそい体なのに意外とちゃんと食べるらしくて安心した。