眠り姫の憂鬱
そっと頬に触れる感触に目を開くと、
知らない男の人がいた。
見つめ合う瞳にどきりとする。

大きな掌が私の頬に当てられている。

だれ?


スーツがよく似合う30代半ばくらいのひと。
サラリとした短い黒髪。切れ長の瞳が驚いた顔で私を覗き込んで、私を固く抱きしめた。

いい匂い。知っている気がする。
ほのかなスパイシーな大人の男の人の香り…

でも…ちょっと胸が痛い。物理的に…


「美月、目が覚めたって本当だったんだな。」 とまた、私の瞳を見つめてあっという間に瞳を潤ませ、涙を落とした。


「…あの…どなただったでしょうか?」と小さな声で聞くと、

「…やっぱり、俺の事も覚えていないんだな…
お母さんの事もわからなかったみたいだし…
大丈夫だよ。
美月が何も覚えていなくても、俺が覚えているから…」と抱きしめた腕を緩め、また私の頬を撫でた。


「俺は竹之内 将吾(たけのうち しょうご)美月の恋人だよ。いや、婚約者かな。結婚するつもりだし…退院できたら、一緒に暮らそう。もう、離れたくない。」と私の瞳を真っ直ぐに見る。

「…タケノウチ ショウゴ…さん?」

「美月は将吾さん。って、呼んでたな。
俺の方が10歳年上で35歳だから…」

…10歳年上の恋人?
…私は25歳ってことだ。

「…ショウゴ…さん…」

「そうだよ。おかえり、美月。」と震える声で囁いて、また私を深く抱きしめた。


…ショウゴさんは…私の恋人…?

ミツキってやっぱり私の名前みたいだ…


私はまた、急激に眠くなる。

「…とても…眠い…」というと、

「うん、少しづつ起きていられるようになるだろうって先生がいってたよ。
…おやすみ。美月。」と私の額に唇をつけた。

「…おやすみなさい。」と私は直ぐにウトウトする。

…今のはおやすみのキスってやつかな…
こんな、恥ずかしい事をする恋人がいたのか…

と私はウトウトしながら思っていた。







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