眠り姫の憂鬱
「お母さん?」と呼ぶと、

「そうよ。美月。」と私の手を握ったまま、ベッドの横の椅子にに座った。

「…ごめんなさい。なにも覚えていなくて…」

「いいのよ。担当の先生は、脳に異常はない。っていってたから…
もう、それでいいの。
ゆっくり思い出せば良いのよ。気分は悪くない?」
と『お母さん』は私に笑いかけてくれた。


私は5日前に会社の側のカフェに行く途中の横断歩道で、バイクに跳ね飛ばされて、頭と、鎖骨と肋骨に怪我を負ったみたいだった。

強く打った頭は脳が一時的にむくんで、植物状態になってもおかしくなかったようだけれど、幸い、浮腫みが早く取れて、3日後に意識を取り戻せたらしい。

まあ、ヒトの記憶はなくなってしまったようだけれど…他は覚えていそうだし…

脳は繊細なので、いつ、記憶が戻るかわからない。という事のようだけど…

バイクに当たって、ガードレールにぶつかり、左の鎖骨にヒビが入り、肋骨も3本折れ、
後頭部は6針縫っている。
11月で厚いコートとセーターを着ていたから、身体の表面にキズはあまりなく、ガードレールに一度ぶつかったのが幸いして、頭の怪我は深くなかったらしい。
頭から倒れたので、顔にキズはないけれど、背中や腰には大きなアザが出来ていると言われた。あちこちに鈍く痛みがあるのはそのためだ。
背中に入れられた管から麻酔薬(痛み止め)が持続で投与されていて、右の鎖骨の下には高カロリーの輸液が投与されているらしい。

目が覚めて、本当によかった。と『お母さん』はまた、涙を流した。



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