眠り姫の憂鬱
「こんにちは、美月ちゃん」と言った声に

「え?」と驚いている間にメガネを外し、茶色い髪を引っ張ると、スポンと取れて、短い黒髪が現れる。

「え?」

ついでのように茶色い瞳のコンタクトを外すと、よく知っている黒い瞳が笑う。

「わかった?美月。」と笑ったショウゴさんに驚く。

「えー!!」と驚くすずちゃん。

「同一人物?」とマスターの奥さんが椅子に座り込む。

「美月の恋人の『イケタニ ショウ』兼、婚約者の竹之内 将吾です。
ゴメン。美月。
会社のそばのマンションに住んだら、休日なのに、会社の社員に見つかったり、声をかけられたりしてちっともゆっくりできなくてね…
知り合いのスタイリストに相談して、変装するようになった。
変装してのんびりしている時にミツキに出会って、
君が勤める会社の副社長だってなかなか言い出せなかった。」と真面目な顔をした。

「きっと、事故の後に君の記憶があれば、すぐに同一人物だって気づいたんだろうけど…
事故の前の副社長の俺は
美月に近づかないように気をつけてたし、声も出さなかったから、受付にいる時、美月は気付かなかったんだ。
だから、ゴメン。俺が悪かった。」と私たちに深く頭を下げた。

「うそおー」とすずちゃんがコーヒーを飲もうとして、口に入らず、洋服にこぼしてしまう。

「あ、すずちゃん、大変。」と私が声を出すと、

「大丈夫だよ。将吾が新しいブラウスぐらい買ってくれる。」といつの間にか遠藤さんがやって来て、笑っている。

「美月許してくれる?」

「…えっと、ショウゴさんは私が好きですか?」

「出会った時から好きだったよ。」

「じゃあ、許す。って言うか…ありがとう、私をずっと支えてくれて…」と言うと、

「良かった。ずっと愛してるよ。美月」と深く私を抱きしめた。

コロンの香りや見つめる眼差しに覚えがあるって思ったのは気のせいじゃなかった。

私は本当にホッとしてショウゴさんをギュッと抱きしめ返した。



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