眠り姫の憂鬱
「竹之内さんが、一緒に救急車に乗ってきてくれたの。
あなたとカフェで待ち合わせていたって、
少し遅れて行ったら、カフェの前の横断歩道であなたが事故に遭ったところだったって、そう言ってた。
残業なんてせずに、一緒に会社を出ればこんな事にならなかったと、ずいぶん自分を責めていたのよ。
あなたはスマートフォンを手にもったまま、事故に遭ったから、電話は壊れてしまったし、
竹之内さんがその場にいなかったら、私達に連絡も来なかったかもしれない。
竹之内さんの秘書の方からうちに連絡があったのよ。
本当に慌てちゃった…
竹之内さんはあなたが受付の仕事をしている『竹之内建設』の副社長さんよ。お父さんが社長さんだと言っていたわ。
あなたが退院したら一緒に暮らしたいと言ってくれているの」と私の手をぎゅっと握った。

「…そう」

「お母さんは、あんな素敵な恋人がいるなんて、知らなかったわ。この特別室も竹之内さんが用意してくれたのよ。とても、あなたを大切に思ってくれてる」

「…」

私も恋人がいるなんて覚えていなかったけれども…

でも…大切にされている気がする。

私を優しく見つめて、大切そうに抱きしめてくれた。
< 6 / 55 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop