今から一つ嘘をつくけど
01* 早起きは三文の徳


 『嘘つきは泥棒の始まり』と言うけれど。私はずっと嘘つきだけど、泥棒にはなっていない。


 私がつく嘘は、悪意で誰かを陥れたりする為や、誰かを不幸にするような、そういう嘘じゃない。自分の気持ちを素直に言えなくて、自分で自分に嘘をついてしまうのだ。


 小さい頃からそうだった。飴が欲しいかと聞かれても、誰かが他に飴を欲しがっていると『いらない』と答えてしまう。本当は欲しいのに。

 一度母親に『本当は欲しかった』とこぼした事がある。それが母親同士を介して、飴を貰った子に伝わってしまった。母親も悪気があって言ったんじゃないと思うけど……

 飴の子にその後怒られた。


『晃ちゃん、いらないって言ったじゃん! 嘘つき!』


 別にその子を怒らせたくて嘘をついたんじゃないのに。一つしかなかった飴を、その子が凄く欲しそうだったから。私は我慢出来る、だからいらないって言ったのに。

 子供の頃はそれで随分苦労した。素直じゃないとか、天邪鬼とか言われた事もある。


 だんだんと大人になって、そういう嘘に名前がある事を知った。

 『社交辞令』とか『遠慮』とか。

 それで人間関係はだいぶ楽になった気がする。


 だけど本心を隠すなんて、大人のほとんどがそうだろう。なるべく本心を隠し、当たり障り無く円滑に。みんなそうやって生きている。

 だから私が特別に嘘つきなのかというと、そうでは無いとは思うけど。だけどやっぱり私は自分で嘘つきだと思ってる。

 だって心の中に、絶対に口に出してはいけない想いを抱えているから……




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