今から一つ嘘をつくけど
 部屋から綾子さんの気配がすっかり消えてしまうと、また静寂が辺りを包む。テレビでも点けようかと思ったけど、結局何もせず、また諏訪さんと向かい合って座った。

 何を話していいのか分からない。それは諏訪さんも同じみたいだ。お互い黙ったままで、微妙に気まずい。


「――――あ、あの……諏訪さん、ビールでも飲みますか? 私、さっき駅前で買ったんです。おつまみも有りますよ!」


 何とか場を和まそうと思ってそう言って立ち上がろうろとしたけど……


「いや、いらない。俺、車で来てるし」

「あ……そう、ですよね……」


 あえなく玉砕。そういえば諏訪さん、綾子さんを車で送るってさっき言ってたっけ。

 立ちかけたのをストンと座りなおした。


「あ! でも、お腹空いたんじゃないですか?! おつまみだけでも食べますか?!」


 もう一度そう言って立ち上がろうとすると、諏訪さんは笑いながらまたそれを止めた。


「いいから、神楽木座って。少し落ち着け」

「はい……」


 私はまた、座りなおした。

 でも『落ち着け』って言われても無理だよ。だって私は、諏訪さんが好きなんだと自覚してしまったんだから。

 綾子さんは『相当あなたの事が好きみたいよ』なんて言ってたけど、本当に諏訪さんは、まだ私が好きなんだろうか……

 全く自信が無い。

 そもそも、私なんかの何処が好きなのか。諏訪さんと出会った高校生の頃は、私はずっとそのお兄さんの晴夏さんが好きだったというのに。




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