今から一つ嘘をつくけど


「神楽木って、嘘つくの下手だろ。全部顔に出てる」

「えっ?!」

「悪かった。お詫びに後でケーキか何か買って来るから。それで許してよ」

「…………別にいいです。いりません」


 私が食べたかったのはケーキじゃない。限定のマドレーヌ。他のものなんていらない。自分でも、たかがマドレーヌ一つで頑なすぎるとは思う。

 だけどほんっとに楽しみにしてたんだ。


「……そ、か。じゃあ、俺もう行くから。この書類、咲子さんに渡しといて」


 私の頑なな態度に呆れたのか、さらりと流したのか。諏訪さんがどう思ったのかは分からないけど。

 彼はそう言って書類を机に置くと、バックヤードを出てお店からも出て行ってしまった。


 ……何だろう。なんか突っぱねた私が悪い、みたいな空気になってる。

 そもそも、勝手に早く来て勝手にマドレーヌ食べちゃったあの人がいけないのに。


 何か…………イライラする。


 ああ、嫌だ。会社の人とはなるべく揉めたりしたくないんだけど。仕事がやりにくくなるから。イケメンだ、切れ者だともてはやされてるけど、私は苦手なタイプかもしれない。


 そんな事を考えているうちに、バイトさんも出勤してきた。今の一件を忘れようと、私は開店準備に専念する事にした。










 開店してお昼を過ぎる頃、遅番の武田店長と一緒に、バイトの海莉ちゃんが出勤してきた。朝の一件でちょっと落ち気味だった気分も、二人が明るい空気にしてくれる。


「――――晃ちゃん、また諏訪くんと何かあった?」


 武田店長は開口一番、そんな事を言ってきた。

 どうして知ってるんだろう?




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