今から一つ嘘をつくけど
 そう思っていると、ずいと目の前に紙袋を差し出される。

 あ……これ、限定マドレーヌのお店の紙袋……


「さっき下で諏訪くんに会ってね、これを晃ちゃんにって」

「諏訪さん、なんと女の子だらけのスイーツフロアで、並んで買ってたんですよ!」


 特ダネスクープを話すように、海莉ちゃんは興奮していた。紙袋を受け取って中を見ると、たくさんのマドレーヌ。


「諏訪さんが……?」

「そう、神楽木に渡してくれって言ってたわ。ああ、諏訪くんは他の所で仕事だって。どうやらそのマドレーヌを買いにだけ来たみたい」


 今朝あんな事があったから。わざわざこれを買いにだけまた来て、しかも女の子がひしめく行列に並んで。


 とくん……と心臓が音をたてた気がした。


 倉庫で寝てるのを見た時から思っていたけど、変な人。凄く変な人だ。

 武田店長と海莉ちゃんに、何があったのかしつこく聞かれたけど、私は絶対に答えなかった。マドレーヌはみんなで美味しく食べた。

 今度は私も食いっぱぐれる事は無かった。




















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