今から一つ嘘をつくけど
 波乱の休みの翌日は遅番。

 もしかして諏訪さんに遭遇してしまわないかと、ドキドキしながら出勤したがそれは杞憂だった。

 諏訪さんは現れなかった。

 ここ数日毎日届けられていた限定マドレーヌも、その日から届かなくなった。

 元々仕事の忙しい人だ。うちの店舗だけにそうしょっちゅう来る事は出来ないんだと思う。店舗を回るだけじゃなく、他にもいろいろ仕事があるだろうし。

 私はホッとした半面、引き伸ばされた再会にまた悩まされる事になった。時間が経てば経つほど、気まずくなりそうで。

 気が付けばほとんど毎日、諏訪さんの事を考えている。それが何だか悔しい。




「――――どうかした?」


 お店の商品を整理している時に、思わず大きなため息をついてしまった。それを武田店長にばっちり見られたのだ。


「い、いえ、別に……」

「そう? 最近晃ちゃん、元気無いから。何か悩み事かと思って」

「大丈夫です。ただ、少し疲れ気味で……この後、姉との食事が面倒だなって思っただけで……」


 疲れているのは諏訪さんのせい。そして姉との食事がある事は本当だった。前に武田店長にも話してある。


「ああ、そういえばそんな事言ってたわね。お姉さんと久しぶりに会うんでしょ? そんな事言ったら可哀そうよ」


 武田店長の言葉に、曖昧に笑顔を返した。


「少し早いけど、もう上がっていいから。お姉さんと楽しんでいらっしゃい。晃ちゃん明日休みなんだから、少しぐらい夜遊びしてストレス発散してきたらいいわよ」

「そ、そうですね。そうさせて貰います」


 武田店長のはからいに、私はそそくさと店を後にした。




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