今から一つ嘘をつくけど
 二人がお互いに想いあっているのは、ずっと気が付いていた。

 でも姉は生活の為に働く事に忙しかったし、それを見ていた晴夏さんも何も気を使って行動は起こさなかった。お互いにその想いをこっそり隠していたみたいだけど、きっとあれじゃあ周りはみんな気が付いていた。

 やっと付き合う事になったのは、私が就職した後だった。




 予約してあるお店は、石窯でピザを焼いてくれる所。晴夏さんのお勧めらしい。


「――――晃ははるくんに会うの久しぶりでしょ?」

「うん…………」


 お店に向かって歩いていると、姉は嬉しそうにそう言った。私はお店が近づくにつれ、だんだん気持ちが暗くなる。


 二人が付き合ってからも、時々三人で出掛けていた。晴夏さんは優しくていい人で。姉のたった一人の家族の私の事も、ちゃんと気に掛けてくれるのだ。

 食事に行ったり、映画を観たり。二人のデートに割り込んでいる私を、決してないがしろにはしない。

 優しくてよく気が付いて、大人な人。


だけど…………


「あ、見えた。あそこのお店だよ、晃」


 姉が前方を指さしたので、私はつられて俯いていた顔を上げた。

 レンガの壁、アンティーク調の入り口のランプ。看板に『石窯ピザの店』と書いてある。


「……なんか、高そうじゃない?」

「そんな事無いよ。大丈夫、見た目ほど高級店じゃないから。それに今日は、はるくんの奢りなの」


 うふふ、と姉はまた嬉しそうに笑った。姉が笑っているという事は、二人の関係は順調で。幸せだという事。


 これで……いいんだ…………


 姉が先にお店の木製の扉を開けて入って行く。私はその後に続いた。




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