今から一つ嘘をつくけど
 カラン、と入り口に付いていたカウベルが小気味よい音を鳴らす。迎えてくれた店員さんに名前を告げると、席に案内してくれた。

 店内はランプの柔らかい明るさで、少し古びたレンガの壁が雰囲気をだしていて。食事をする席はそれぞれ仕切られていて、周りが見えないような個室のようになっている。

 店の一番奥の席に案内さると、席を晴夏さんがにこにこしながら立ち上がり、手を振ってくれた。


「やあ、晃ちゃん。久しぶりだね」

「……こんばんは、晴夏さん。お久しぶりです」


 今日は平日だったので晴夏さんも仕事だったのだろう、きっちりとしたスーツ姿。そしていつもの眼鏡。細身で背が高く、性格がよく出ている優しい笑顔。


「晃ちゃんも、もうすっかり大人の女性だね」

「いえ、そんなんじゃないです……」


 高校生の頃から知られているからか、年が離れているか。晴夏さんはよく私を子供扱いする。

 本当に大人の女性だと思っていたら、こんな事言わないだろう。でもそれは私を本当の妹のように思っていてくれてるからで。

それは嬉しいけど……でも…………


「はるくんも晃も、挨拶はそれぐらいにして早くピザ頼もう? 私お腹空いちゃった」


 姉が無邪気にそう言って、やっと私たちは席に着いた。

 お店のシェフのお勧めは、マルゲリータ。それとベーコンとほうれん草のピザとパスタを一つにサラダ。お酒が苦手な私にも飲みやすいという、晴夏さんが選んでくれたグラスワインを二つ頼んだ。姉は飲まないと言ったので、グレープフルーツのジュースを頼んでいた。




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