今から一つ嘘をつくけど
「――――神楽木?!」
どうして私の名前だけ呼ぶのよ! 海莉ちゃんもいるのに!
こそっと海莉ちゃんの陰に隠れたが、無駄だった。
諏訪さんはつかつかと私の傍まで来ると、信じられないものを見たような顔で言った。
「な……っ! 何でお前がここにいるんだ!」
「……私だって、飲み会ぐらい出ます」
「そうじゃなくて! いいから、ちょっと来い!」
ガッと腕を掴まれたかと思うと、諏訪さんはそのまま私を引っ張り上げて立ち上がらせ。強引に個室の外へ連れ出される。そのあまりの剣幕に、海莉ちゃんがポカンとしていたのが部屋を出る時に見えた。
諏訪さんは個室を出ると、トイレへ通じる通路へ。そこは人がやっとすれ違えるくらいの狭い通路で、あまり人通りも無く店内から死角になっている場所だ。そこでやっと掴んでいた手を離してくれた。
私は訳が分からなかった。だって、飲み会に来ただけで、こんなに言われる筋合いは無いはず。
壁に背を付け向かい合うと、諏訪さんは明らかに怒った顔をしている。
「お前……! 何やってるんだよ、こんな所で!」
「何って……お店の子に誘われたから来ただけです」
いつもそうだけど、諏訪さんの行動は意外過ぎてよく分からない。
どうして諏訪さんは怒っているんだろう?
「誘われたからって……大丈夫なのか?! 酒まで飲んでたみたいだけど」
お酒は苦手だけど、付き合いで少しぐらいは飲める。それがそんなに悪い事なんだろうか。