今から一つ嘘をつくけど
「ちょ……っ! 諏訪くんが泥棒……!!」
「お、俺、いろいろ言われてるけど、泥棒って言われたの初めて…………! ぶっくくくっ!」
「どろぼう……! 晃ちゃんのハートでも盗んじゃった? あはははははははは!」
「ちょ……! それ、ルパ……ぶはっ! 咲子さんっ! 笑い過ぎ……!」
文字通り、お腹を抱えて笑い転げている。あまりの笑い声に、近隣のショップの人たちが見に来たぐらいだ。
…………もしかして、違ったのかな。
二人の笑いっぷりに、だんだん恥ずかしくなってきた。もう顔が熱い。真っ赤になって嫌な汗をかきだした私に、笑い過ぎて出た涙を拭いながら武田店長は教えてくれた。
「そういえば、先月移動してきた晃ちゃんは初対面だったわね。この人は、諏訪 静夏(すわ しずか)くん。泥棒じゃなくてアンティーク スワンの社員で、この辺りの店舗のエリアマネージャーよ」
「ええっ! エリアマネージャー?!」
今度は私が驚いてしまった。
全国に幾つも店舗がある輸入雑貨店『アンティーク スワン』は、今流行りの北欧雑貨や他の輸入雑貨、ちょっとしたアンティークなどを扱っているお店だ。
若者から年配の女性まで、幅広い客層に根強い人気がある。お店は落ち着いた雰囲気で、その静かな佇まいが少しだけ高級感。だけど扱っている商品の値段はリーズナブルで、買いやすい。
私もこのお店に憧れていて、入社出来た時は嬉しくて泣いたくらいだ。
会社の規模も結構大きくて、そんな店舗を地域ごとに総括するエリアマネージャーといえば結構な能力が必要な役職だ。
私はそんな人を、泥棒呼ばわりしてしまった事になる……