今から一つ嘘をつくけど
「……お酒ぐらい大丈夫です。酔う程は飲んでないし」
「だけど……! もっと自分の身体を大事にしなくちゃダメだろ! もうお前一人の身体じゃないんだから!!」
私一人の身体じゃない? もう本当に意味が分からない。諏訪さんは何を言っているのか。
私が少し眉を顰めると、彼は急にトーンダウン。
「ああ、そのっ……今は大事な時期なんだろ?」
「はっ……?」
「えと、その…………お腹の赤ちゃんには……」
「えっ?」
お腹の赤ちゃん??
「……誰の赤ちゃんですか?」
「えっ?」
話が全然噛み合わない。頭の中に?マークを一杯浮かべていると、諏訪さんはやっと私が理解していない事に気が付いたのだろう。彼も何だか変な顔をし始めた。
「……神楽木、お前……妊娠してるんだろ?」
「ええ?! してませんよ!」
してたら私がびっくりだよ! ここ何年も彼氏なんていないのに。
「えっ?! だってこの間……赤ちゃんが出来たって、泣いてたじゃないか!」
「え……っ」
ああ、それでやっと分かった。
諏訪さんの早合点に、私は深いため息を吐いた。
「赤ちゃんが出来たのは、私の姉です」
「え……っ?!」
私の言葉に諏訪さんは目を丸くすると、カーッと顔が赤くなっていく。どうやらやっと自分の間違いに気づいてくれたみたいだ。
諏訪さんの家で一晩過ごしたあの日、泣いていた理由を『姉に赤ちゃんが出来た』と言ったと思うんだけど。たぶん『姉に』の部分を彼は聞いていなかったのだろう。