今から一つ嘘をつくけど


「ええ……っ?! でもあの時お前…………そうか、姉か……」


 そんな事をぶつぶつ言いながら、耳まで真っ赤になってしまった諏訪さん。いつもは私がそうさせられてるからか、そんな姿がおかしくてプッと吹き出してしまった。

 あたふたする諏訪さんが、今日は何だか可愛く見える。

 しばらく一人でブツブツ呟いていたかと思うと、ゴホンと咳払い。取り繕おうと思ったみたいだけど、まだ顔は少し赤かった。


「……悪かったな、神楽木。てっきり俺はお前に赤ちゃんが出来たのかと思って……つい……」

「大丈夫です。私の言い方もいけなかったのかもしれないし」


 あの夜の後、お店に来た諏訪さんの不審な行動の理由も分かった。ちらちら私の様子を窺っていたのは、妊娠した私を心配してくれていたのかもしれない。


「じゃあ、誤解も解けたようなので、私戻りますね」


 変なふうに出てきちゃったから、きっと海莉ちゃんも心配してるだろう。部屋に戻ろうとすると、また腕を掴まれた。


「――――ちょ! 待てまて!!」


 ……まだ、何かあるというのだろうか。


「何ですか……?」

「ダメだ、戻るな。お前はやっぱりこのまま帰れ」


 今度は何なのだろう。諏訪さんの強引な態度と、訳の分からなさに少しイライラしてきた。今は仕事中じゃないんだから、彼が私の行動を制限する権利なんて無いはずだ。


「どうしてですか? 海莉ちゃんが待ってるから、戻ります」

「ダメだ!」


 強く腕を引かれ、そのまま身体を壁に押し付けられた。




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