今から一つ嘘をつくけど
 もう一度、唇を塞がれた。


「……んっ…………!」


 両手で諏訪さんの胸を押し返そうとしたけど、びくともしない。何だか怖くなって、ぎゅっと目を閉じた。

 やがて彼の舌が私の中に入り、口の中をなぞり舌を絡ませる。


「ぅん……っ……んん…………っ!」


 逃れたいけど、上手く力が入らない。震える両手を握って諏訪さんの胸を思い切り強くむちゃくちゃに叩いた。

 その衝撃が伝わったのか、彼はやっと解放してくれた。だけど……




「…………もうお前を誰にも奪われたくない。好きなんだ、ずっと前から…………!」




 何これ……一体何なの?!

 誰にも奪われたくないって、そもそも私は諏訪さんのものじゃない。それに突然キスされて、好きだなんて言われても。そんなの信じる事なんて出来る訳が無い。冗談にしたって笑えない。

 怒りと一緒に、涙が溢れだす。


「い、いきなりキスしたり……好きだとか…………こんな酷い嘘、止めてください!」

「嘘じゃない! 好きなんだ!」

「止めてください!」

「ずっと好きだったんだ!!」

「止めて!」


 いくら諏訪さんだからって、こんなの酷過ぎる。

 大きな声を出したから、お店の店員さんが様子を見に通路に顔を出した。その隙に私はこれ以上聞きたくなくて、耳を塞ぎながら諏訪さんの傍から走り逃げた。




 みんながいる個室へ戻ると、私は置いてあった鞄を自分の席から取った。


「――――晃さん、どうしたんですか?! 諏訪さんと何が……」

「ごめん、海莉ちゃん。私、帰るね」




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