今から一つ嘘をつくけど
 今日は平日だから、姉はきっと仕事のはず。お昼にメールをチェックしてくれれば、姉の職場の近くでランチが出来るかもしれない。それまでは駅前とかでうろうろしていればいいし。

 このまま部屋にいるよりも気が晴れるだろう。

 そう思って携帯を置いて支度をしようとすると、置く前にそれが鳴った。見ると、たった今メールを送った姉からだった。

 あれ? 今日は休んだのかな。


「お姉ちゃん?」

『あ、おはよう、晃』


 姉の声は明るい。何かあったようでは無かった。


「お姉ちゃん、今日は仕事は? 休んだの?」

『ああ、実はね……社長に妊娠と結婚の事を話して、それで会社は辞める事になったの。産休取れる程、大きい会社じゃないからね。それで今は溜まってた有給の消化中』


 そうか、そういう事か。姉が大学を中退してからずっとお世話になっていた所だ。ただでさえ必要最低限の人数でやっているから、産休を取って迷惑をかけるより、辞めて新しい人を雇ってもらう事を選んだんだろう。

 そういう優しいお姉ちゃんだから。


『晃も休みなら、これから会わない? はるくんとかみんなで一緒に、お昼食べようよ』

「え? みんなって?」

『遠野先生とかも一緒に!』


 晴夏さんが一緒にというのは分かるけど、何でその父親の遠野先生もなのだろうか。ずっとお世話になっているから、嫌という訳じゃないんだけど。


『――――実はね、今……遠野先生の家でお世話になってるの』

「えっ?!」


 聞くと、妊娠と結婚を報告した時に、遠野先生が提案してくれたそうだ。一人暮らしで身重の姉に何かあったら心配なので、だったら家に来ないかと。




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