今から一つ嘘をつくけど
 遠野先生は息子の晴夏さんとの二人暮らし。家は三階建てで、一階が法律事務所になっていて。遠野先生と晴夏さんはそこで働いている。

 だから一緒に暮らせば、姉が一人になるような事は殆ど無いから。


『晃、遠野先生の家にもう随分来てないでしょ? 久しぶりにおいでよ。先生も喜ぶし、私がお昼作るから』


 姉が作る料理なんて、就職して離れて暮らすようになってから食べてない。結構料理上手で、亡くなった母の味にもよく似ている。だからそんな誘いを断れるはずは無い。

 それに晴夏さんの名前を聞いても、もう今までみたいな暗い気持にもならなかった。

 晴夏さんへの恋は、私の中で完全に終わったのだ。


 お昼前には着くようにすると約束すると、私は姉との電話を切った。




















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