今から一つ嘘をつくけど
「俺はお前がずっと兄貴を好きだったの知ってたから、兄貴に失恋したお前を、もう誰にも奪われたくなかったんだ……だから…………」
顔をハンドルに伏せたまま、くぐもった声でまだ話続ける諏訪さん。
いつも余裕たっぷりで、かっこよくて。私の事をからかったりしてる人なのに。なんだか…………
「……もう、いいです」
いつの間にか私は、笑ってしまっていた。
「もう大丈夫です。昨夜の事は全部忘れます」
なんだか諏訪さんが、諏訪さんらしくなくて。ジタバタ悩んでいたのは自分だけじゃない、そう分かったから。
忘れてしまおう、全部。あれは事故みたいなものだったんだ。
だけど、彼は焦ったように顔を上げた。
「それはダメだ!」
「え?」
「全部忘れてもらっちゃ困る!」
私を見つめる諏訪さんの顔は、赤くて。昨夜のあの時と同じ、苦しそうな泣き出しそうな表情で。
「――――お前を好きだって言った事は、忘れないでくれ」
……心臓が、跳ね上がるように音を立てた気がした。
「本当に、好きなんだ。ずっと…………」
冗談だと思っていた。彼は私をからかって言ったんだと。でも……
跳ね上がった心臓が、まるで早鐘のようにトクトクと音を立てて、凄い勢いで血液を循環させている。その血液は熱を帯び、身体中を駆け巡り。
私の身体も、熱を帯びる。