今から一つ嘘をつくけど
「もうあんな事はしない。だから……触れてもいいか…………?」
おずおずと手を伸ばした諏訪さんは、鞄を抱きしめている私の手に優しく触れた。彼の手の熱が、伝わってきて。俯いてその手を見ると、大きくて奇麗な彼の手が見えた。
耳には自分の鼓動の音がどくどくと響いている。
「……一つ、教えてください。どうして、晴夏さんの弟だって事を教えてくれなかったんですか?」
触れていただけだった彼の手が、私の手をぎゅっと握った。
「思い出して欲しかったんだ……」
諏訪さんの手の熱が自分の手の熱と重なり、ゆっくりと顔を上げて彼と目を合わせた。
「……やっと、俺の事を見てくれた」
目が合うと、諏訪さんはそう言って嬉しそうに笑った。
◇