今から一つ嘘をつくけど
「そういえば、君の名前は?」
「神楽木 晃(かぐらぎ あきら)です」
「かぐらぎ…………珍しい名前だね」
促されて名前を言うと、諏訪さんは私の胸に付いているネームプレートをしげしげと確認していた。私の名前は結構珍しいとよく言われる。だから、音だけじゃよく分からなかったのだろう。
「ところでねえ、諏訪くん。寝坊したのにこんな所でいつまでも油売ってていいの?」
「ぅわ! そうだった! もう次の店舗行くんだった!」
武田店長の一言に『次は煩い店長のとこなんだよな~!』なんて大きな声でボヤキながら、彼はバタバタと帰り支度を始める。そして倉庫から出て行った時と同じような早さで、去って行った。
「――――賑やかな人でしょう?」
呆然とそれを見送っていると、隣に立った武田店長が言った。
「諏訪くん、まだ三十歳なんだけどああ見えて結構優秀よ。二年前からエリアマネージャーになったんだけど、気さくで話しやすいから、若い店長や社員たちには人気があるし」
それに、顔もいい。だから何の関係も無い周りのショップの人たちも、彼が来ると見に来たりするんだそうだ。
『諏訪 静夏』なんて名前だけど、全然静かじゃない。むしろ煩い。
でも武田店長がこんなに褒めるから、本当は凄い人なのだろう。初見ではとてもそうは見えなかったけど。
……泥棒と間違えちゃったし。