今から一つ嘘をつくけど
満月にまた、諏訪さんの顔が見えた気がした。それにため息を吐く。
諏訪さんが私を好きだなんて、冗談だと思っていたのに。そうじゃなかった。
私がずっと晴夏さんを好きだった頃からずっと、諏訪さんは私が好きで、晴夏さんは姉が好き。みんなの矢印は一方通行で同じ方向を見ていた。
そのどうにもならない想いは、私が一番知っている。
だけど、だからといって安易に彼を好きだと言う事は出来ない。そんなのただの同情だ。それでは私も諏訪さんも辛いだけ。
でも……
晴夏さんを好きだった時は、ドキドキはしたけど落ち着いていた。穏やかな彼の性格のせいもあるんだと思うけど。ポカポカとした日だまりにいるような、そんな恋だった。
諏訪さんの事を考えるとやっぱり、ドキドキはするけれど……
ドキドキしてイライラして、びっくりしたり慌てたり。泣いたり怒ったり、笑ったり。感情がクルクルと忙しい。身体の真ん中の所が塊になって、ジンと痺れるように感じる。そしてその痺れた塊が、熱を持つ。
これは……何なのだろう…………
痺れて苦しいのに、痛いのに、嫌じゃない。諏訪さんの事を考えると苦しくなるのに、嫌じゃない。
こんな気持ち……今まで感じた『好き』っていう気持ちとは、全然違う。
はあ、とまたため息が零れてしまった。カーテンを閉めてベッドへ戻ったが、まだ当分は眠れそうにない。
このままじゃ、明日は早番なのに遅刻してしまう。
これ以上余計な事を考えないように、私は目を閉じると羊の数を数え始めた。