飛べない鳥に、口づけを。
いつものように古びたマンションを上がり、
「小沢さん、こんにちは」
挨拶をする。
足腰の悪い小沢さんは一人で歩くことが出来ないが、
「あー……川口さん」
和室からあたしの名を呼んでくれた。
小沢さんのマンションに来るようになって五ヶ月。
最初はあまり話してくれなかった小沢さんも心を開いてくれて、色んな話をしてくれるようになった。
樹君の話。
小沢さんの昔の話。
樹君の話。
小沢さんの体の話。
樹君の話。
小沢さんの話を聞くたびに、樹君のことが大好きなのだと感じる。
小沢さんが樹君に支えられているのと同様、樹君だって小沢さんに支えられているのだろう。