飛べない鳥に、口づけを。
「菜緒ちゃん」
待ち合わせ場所に着くと、大好きな声に呼ばれた。
顔を紅潮させ、胸を高鳴らせ、あたしは声のするほうを見る。
すると、黒いコートにジーンズ姿の樹君が立っていて、さらに胸が熱くなった。
優しげで整った顔はもちろん、ふわっとした髪、落ち着いて大人らしい服装、コートの上からでも分かる鍛えられた肉体、その全てに狂わされる。
こうやって会っただけなのに、胸のときめきが止まらない。
樹君と一緒にいるだけで、あたしがあたしでなくなってしまいそうだ。
それほどまでに、樹君に夢中だ。