飛べない鳥に、口づけを。
どうやらパニックを起こしているのは、あたしだけらしい。
樹君はいつも通り冷静で、あたしの手を引きながら他愛もない話をした。
普段から自炊しているだとか、明日は試合だとか。
そんな話を聞きながら、あたしの頭の中は「そんな関係」のことでいっぱいだ。
やがて樹君は綺麗なマンションに着き、エレベーターに乗る。
そして上層階の扉の前までゆっくり歩き、
「どうぞ」
扉を開ける。
開かれた扉からは、微かに樹君の香りがした。
それがあたしの鼻腔を刺激して、倒れてしまいそうになる。
だけどやっぱり平静を装って、
「おっ、おじゃまします!」
部屋に入った。