【琥珀色の伝言】 -堤 誠士郎 探偵日記-
堤探偵事務所



いつもの沈黙がはじまった。

肘をつき、口元に手を添えるのが堤先生の思考のスタイル。

指先が動くしぐさは、浅く広く物事を考えるとき。

微動だにしないときは、深く深く思いをめぐらせている。


お気に入りの椅子は、おじいさまから譲り受けたものだと聞いている。

革張りの重厚な椅子は考え事をするには最適らしく、推理のほとんどは、この椅子の上で行われていると言っても過言ではない。



話しかけても返事すらしない先生を、なんて無愛想な人だと思ったこともあったが、それは僕の判断力のなさが招いた誤解で、その集中力たるやすごいものがある。

いったん推理に入ると、世間の騒音や人の気配など完全に遮断してしまう。

ただし、それはこの部屋の中だけのこと。 

現場に出向くと一転、あらゆる方向に意識を向け神経を研ぎ澄ます。


依頼人が持ち込む品から、これまで謎とされたいわれを解きほぐしていくのが先生の仕事だ。

犯罪心理学を学ぶため、欧州に留学されていたと聞いている。

洗練された捜査技術は、そのとき学んだものだろうか。

依頼人の多くが各界の著名人であることから、先生の人脈の広さがうかがえるのだが、ご自分のことはおっしゃらないので、そこが先生の謎の部分でもある。

古い懐中時計と万年筆を常に携え、謎を解き明かす先生の姿は僕の憧れだ。



”松木君 君の発想は素晴らしい それは大事なことですよ”


先生の言葉は僕のお守りとなっている。

僕にとって先生のもとで働けることは、この上ない幸せで、いつまでもそばで勉強させてもらいたいと思っている。


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