【琥珀色の伝言】 -堤 誠士郎 探偵日記-
僕がこの椅子に座ると、誰もがそばに来るのを遠慮する。
松木君は、ときおり僕の手元を見ては、すぐに机に視線を戻す。
藤波君も似たようなもので、時計を見る振りををしながら僕の様子をうかがっている。
毬代にいたっては、クロッキー帳を開いているのに鉛筆が動いていないのだから、僕を盗み見ているのは明らかだ。
そうやって無言の時間を作り出さずとも、僕は自由に思考の中に入り込めるのにと彼らに伝えてもいいのだが、一人の時間もなかなか貴重なものだ。
しばらく孤独を楽しませてもらうよ。
ここに事務所を構えて数年がたつ。
何件もの依頼品に向き合ってきたが、今回の品ほど複雑な様相をみせたものはない。
楽譜の一部は焼け焦げ、すでに形を成していないことから推理は困難を極めた。
だからといって 「力になれず残念です」 と依頼人に伝えることは許されない。
いや、許されないのではない、僕のプライドは許さない。
さて……
そろそろ、焼けた楽譜の顛末と音符に関わった人物の話を、彼らに話して聞かせようか。
「みんな 集まってもらえないか」
待っていたように毬代と助手のふたりが立ち上がり、急ぎそばにきた。
ひとことたりとも聞き逃すまいと、みなが食い入るように見つめる、この瞬間がたまらない。
三人の顔を見ながら、僕はゆったりと話を始めた。