チェックメイト
「先輩っ…ち、近いです!」

「…あの既婚者も同じ事をやってたじゃねえかよ。」

「え、ええ?そうでした?!」

「…だから言ったじゃねえか。」

こんな至近距離で綺麗な顔に呆れられたら思った以上に迫力がある。

「男と並ぶのに…これが危ない距離だって思わねえの?」

それだけ囁くと先輩は体を起こして少し距離を取ってくれた。

でも私は先輩の言葉と視線に射抜かれたまま動けない。

なに、この感覚。

新入社員で出会ってから4年、今まで触れたことのない先輩の空気に完全に圧倒されている。

ここは仕事場じゃないって分かってる、でもこんなに男を感じさせる先輩を見るのは初めてだった。

怖くはない、ただくらくらするだけ。

これはアルコールの力なの?

「熱い…。」

頬に手を添えて私は呟いた。

ずっと憧れていた事は素直に認める、今日知った先輩の新しい一面に触れて揺れたことも認めよう。

わたし、先輩が好きなんだ。

先輩が男の人なんだって思い知らされてさらにハマっていくなんて、なんでこんなに乱すんだろう。

どうしよう、恥ずかしくてもう先輩の方を向けない。

「さて、残念ながらお時間となりました。縁も酣ですが~…」

司会者の声で二次会の終わりが告げられた。

それと同時に凜が戻ってきて久しぶりに言葉をかわす。

「どうだった?先輩と仲良く話せてたじゃん。」

「ちょっ…凜!」

先輩の前で何を言うのかと焦ったけど、さっきまで隣にいた先輩の姿はどこにもなかった。

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